平成21年7月25日
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 ネットショップで注文が入ったのだが、アクシデント発生。
 注文を受けた17号サイズのリング、発送前の確認で刻印が薄い事が発覚。
 他も17号は全て同じ状態。メーカーが製造時に鋳造作業でミスをしたものだ。
 どうしようか。
 「ごめんなさい」は最終手段。とにかく何とかせねば。
 
 19号のサイズを詰めて17号にする事に・・・。
 まずは糸ノコで切断。
 リングの周囲には唐草模様が入っているので、できるだけデザインを壊さないように、最も目立たない場所を探して切る。
 切断中。
 切断完了。
 棒ヤスリが入るくらいに手で開き、ヤスリを入れてギザギザの切断面を整える。
 目的の17号サイズを確認。
だいぶ切除する必要がある。
 糸ノコで余分なところを切除。
 仕上げまでに研磨したりしてサイズは大きくなるので、若干17号サイズより大きめにしておく。
 これから蝋付けをするが、普通に合わせて蝋付けしてしまうと、円が小さくなった分再結合した部分が尖った形になってしまう。ぴったり付くように接合箇所を木づちで叩いて少し平らにする。もちろん正円ではなくなり楕円に変形する。
 蝋付けする箇所にフラックスを塗布する。
フラックスを塗らないと蝋が入って行かない。
 フラックスを塗った部分にバーナーを当てて水分を飛ばす。
 適切な蝋を選ぶ。融点によって様々な蝋があり、高い温度でやっと溶ける蝋ほど銀の含有率が高く、仕上がり時の色の違いが少なくなる(目立たなくなる)が、高いほど作業は難しくなる(銀の融点に近づくわけだから、下手をすると、リング自体が溶解を始めてしまう)。
 今回は「5分蝋」(融点750℃)を使用した。
 蝋を接合箇所に乗せる。
 バーナーで加熱。
最初はフラックスが燃えて緑色の炎が出る。緑の炎が写真のようにオレンジの炎に変わったら、リングの温度が上昇を始める。
 温度が上がるにつれ、リングが赤くなりはじめ、どんどん明るい色になってくる。
 リングの温度が上がってきた証拠で、この色を見て適温を判断する。
 温度が上がり過ぎればリング自体が溶けてしまうので、炎とリングとの距離を注意深く調整する。
 リングの温度が上がって行き、蝋の融点に達すると、「シュッ」と溶けた蝋が結合箇所の隙間に入る。
 バーナーの炎を止め、すぐに酸洗い液に投入。
「ジュッ!」っと煙を出してリングが沈む。
 酸で余分なフラックスを洗い流す。
 酸洗い液から取り出すと、リングは酸に洗われて真っ白の状態になる。
 蝋の付き具合を確認。
 リューターにサンドぺーバーが巻き付いたポイントを取り付け、リングの内側を研磨する。
 隙間に入った蝋は、リングの内側にも流れ出た状態になっているので、その凸凹を除去するため。
 リューターは高速回転するので、その摩擦熱でリングは持っていられないほど熱くなる。
 こんな道具を使って、間接的にリングを保持する。
 内側をならした状態。リングの内側、結合部分にはみ出していた蝋は除去された。
 下の部分が結合箇所。もうつなぎ目はわからなくなった(内側のみ)。
 内側のはみ出し蝋が無くなったところで現在のサイズを確認。16号。
 焼き入れされた強靱な炭素鋼の芯金に通してリングを正円に戻すと共に、サイズを調整する。
 芯金に通したら、先端を台に固定し、回転させながら、リングの周囲を木づちで叩いて、正円にして、17号になるまで広げる。
 17号になった。
 再びリューターで研磨して今度は外側や上下の面を平らにする。
 「610ハップ」という入浴剤に入れて銀を硫化させる。
銀は硫化すると黒い硫化銀となるので、この性質を利用してリングの周囲に硫化銀の層を生成させるわけだ。入浴剤に含まれる硫黄成分を利用する。
 本当は彫金用に「古美液」というのがあるが、高価なので、同じ働きをするこの入浴剤を使っている。
 彫金師もこれを使う人は多い。
 バーナーで加熱して硫化を早める。
 ただ浸けただけでは、とても時間がかかるが、加熱すれば、一瞬で真っ黒になる。
 ポイントをセラミックの細かい粒度のものに付け変えて、リューターで研磨する。
 へこんだ部分だけは硫化銀が残り、表面は硫化銀が剥離され、元の銀が出てくる。
 仕上げ用の銀磨き用研磨剤をウエスに塗ってリングを磨く。仕上げ行程だ。
 完成!。

 無事にお客さんの元へ届ける事ができそうだ。